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アイドマの法則とDM/模倣とは否定すること

 
 私が25、6歳の頃、初めて広告のコピーを書くことになったとき、先輩から「DMという名のセールスマン」という本を読むように勧められました。

 この本の著者である故・深山一郎氏は、アメリカ流のDM(ダイレクト・メール)によるビジネスと制作作法を日本に導入した草分け的な存在として、業界では有名な存在でした。しかも、この方は、当時在籍していた会社とかなり深い関係があったのですが、そんなことに無頓着な私は、面倒なのでデスクの端に置かれたこの「DMのバイブル書」を読むのを先送りにしていました。

 その代わり私は、社内で「最高のお手本」とされていた、実績のあるDM作品を隅々まで何度も読み返しました。そして、その基本構成や文体、文章の展開法などをことごとく真似てみました。メインのチラシはサイズと形が異なったので、レイアウトは真似しようがなかったのが幸いしたのかもしれません。初めて作ったDMは大成功を収め、私がDM制作にのめりこむきっかけとなりました。

 2回目以降のDM制作では、「社内のお手本」ではなく、初めて作った自分自身のDMを自己模倣し続けました。物真似といってもその都度、商品特性が異なるので、厳密に言えば「創作」の部分が必ずあります。少しずつ工夫を重ねるうちに、最初のDMから離れ、個性らしさが生まれていくのを感じたものです。

 そして、30歳の頃、DMのコピーにおいては自他共に認めるエキスパートになったときに、先の「DMという名のセールスマン」をようやく読む気になりました。そこで、アイドマの法則なるものの意味を初めて知ったのです。

アイドマの法則とは

 ご存じではない方のために、広告界の古典的な常識であるアイドマの法則について説明しておきます。

 アイドマ(AIDMA)とは、@Atention(注意)、AInterest(興味)、BDesire(欲求)、CMemory(記憶)、DAction(行動)の頭文字をつなげたもので、消費者が商品を知ってから買うまでの心理的なプロセスをわかりやすく表したものです。

・広告は、まず消費者の目に留まることから始まります。だから、広告制作ではAtention(注意)を喚起することが大事なわけです。
・商品が認知されたあとは(というより同時に)、Interest(興味)を持ってもらわなければなりません。さらに商品が欲しいというDesire(欲求)を抱かせることができれば、宣伝・広告は半ば成功です。
・次の段階はMemory(記憶)です。商品を覚えてもらえば、最終的に購買の「行動」につながわけです。

 説明されてみれば当たり前のことですが、実際の広告はこれらのプロセスを踏まえた上で、そのメディアの特性を生かした表現を追及することになります。

 私の経験からいえば、ダイレクト・マーケティングではInterestとDesireが特に重要になります。最初のAtentionは、DMの開封率を高める意味はあるのですが、それだけでは購買につながりません。〔欲求 ⇒ 納得 ⇒ 即・行動(申込)〕の形を作りたいのです。無店舗販売であるDMにおいては、「記憶」は重要ではなく、「納得」というプロセスをたどります。

 DMのコピーでは、顧客に商品(サービス)の素晴しさを納得していただくために、最大の努力をします。なにしろ、DMにセールスマンの役割を託すのですから、文章にもセールストークに匹敵するノウハウが要求されるわけです。

「法則」よりも「お手本」を超えること

 さて、アイドマの法則などの理論を知ったからといって、広告制作にすぐ役立つわけではないことはお分かりいただけたでしょう。だから、というわけではないのですが、私は「法則」を知らず、いきなり制作という「現実世界」に入っていきました。

 深山氏の本を読んで私が感じたことは、「そうだったのか、これでよかったのだ」ということです。社内で「最高のお手本」とされたDMから感覚的に身につけたことが、実に分析的に理論化されていることには感心しましたが、先にこの本を読んでいたら、もっと早く高みにたどり着けたかどうかは疑問です。逆に、理屈だけで「わかったつもり」になって、自分なりの「お手本」の分析(=創造的模倣)を怠っていたかもしれません。

 クリエイティブ・ワークでは、「急がば回れの精神」が大切です。理屈が先行すると、低いレベルで止まってしまいます。「わかった」と思っても、それは誰もが一度は経験する幻想に過ぎないのです。社会は常に変化しています。

 理論や法則、理屈のたぐいが役に立つのは、クライアントに作品を認めともらうときだけです。会社のお偉いさんや上司もある種の「クライアント」と考えてよいでしょう。理論を知っていれば、プレゼンテーションが成功する確率は高まります。でも、仕事の現場では理論から入ってはいけないのです。この世のあらゆる理論は、常に「現実を追いかける存在」でしかないのですから…。

 DM制作で私が心がけてきたことは、自己模倣も含めて「お手本」を超えることでした。お手本以下のものを作っても、それは「創造的模倣」にはなりません。

 逆説的にいえば、模倣するという行為はオリジナルを否定することでもあるということです。模倣しない部分の否定の仕方、乗り越え方が大事だということです。

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