記憶法&発想法―頭がよくなる脳の使い方
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模倣は創造の源

無から有は生まれない

 
 創造は「無から有を生み出すこと」と思われがちですが、それは大きな誤解です。発明や芸術、工芸、デザイン、芸能、商品開発などには創造的な要素が欠かせませんが、それらはまったくのゼロから出発するわけではありません。先人たちが築き上げてきた土台の上に打ち立てられるものです。

 ソニーの元社長・会長、井深大(1997年没)は「真似をするということは、大変難しい技術だ」といって、「有からより大きな有を生むこと」を提唱していました。

 また、版画家の池田満寿夫も著書の中で、「すべての創造は模倣から出発する。そして創造が真の意味の創造であるためには、その創造のための模倣が、創造的模倣でなければならない」と述べています。

 模倣こそは創造の出発点であることは、疑いようのない事実だといえるでしょう。問題はその模倣の仕方です。どんな真似方をすれば創造的模倣になるのか? 言い換えれば、どの部分をどのような形で模倣するのかということが、すぐれた模倣=創造の鍵を握ることになります。

学ぶとは模倣すること


 日本では古来、芸事を身につけるのにひたすら形を真似ることが求められました。「学ぶ」という言葉はこの「真似る=まねぶ」に由来するといわれます。まずは形を完全に模倣することが重要であり、一つ一つの形や技能の意味の理解は、習熟の度合いに応じて後からついてくるというわけです。

 つまり、「ひたすら真似をして、エキスとなるものを盗むこと」が芸を身につける基本で、師匠が直接教えることはめったにない、というのが日本の伝統文化のあり方だったのです。

 
 「芸は盗むもの」という考えが如実に表れているのが、囲碁の世界です。プロ棋士を目指すには、まず師匠を選んで弟子入りするのが一般的ですが、師匠は入門時に指導碁を一局打ってくれるだけだといいます。主な勉強法は仲間との実戦対局と局後の検討、詰碁などの他に、古今の名局を碁盤に並べるという方法があります。この勉強法はアマ有段者にも有効ですが、単に形を真似て記憶することが目的ではありません。一手一手の深い意味を自分なりに理解し、無限のバリュエーションをもつ実戦局面にマッチした着手を発見するためのトレーニングとするものです。

 伝統文化に限らず、独創的な発想や作品というものは、しっかりとした基本のないところからは生まれません。長い年月をかけて工夫に工夫を重ねて形成されてきた作品(形式)の中にこそ、創造のヒントが詰まっていると考えられます。創造とは、むしろその作品の高みに迫ろうとする過程で立ちはだかる、様々な個人的な“壁”が生み出すものではないでしょうか。

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