記憶法&発想法―頭がよくなる脳の使い方
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心理学では記憶より忘却の研究が先行

 記憶に関しては、心理学が苦手な分野らしく、性格や気質の研究などと比べて大きく遅れていました。

 脳生理学における記憶の研究はさらに遅れ、大昔から常識化されていることを「脳科学で説明するとこうなる」と追認している状態に過ぎません。

 人類が火星に移住する可能性を真剣に研究している学者グループがいることを思うと、科学の発展もかなりアンバランスだなあ、と思わざるを得ません。

 でも、それでいいのかもしれません。人間の高度な精神活動の仕組みが脳細胞のレベルで解明されてしまっては、ちょっと空恐ろしいですよね。

エビングハウスの忘却曲線

 さて、話を心理学に戻しますと、19世紀後半のドイツにエビングハウスという実験心理学者がいました。この方は記憶の実験ではなく、なんと忘却の実験を行ったのです。そして、「人間の脳は忘れるようにつくられている」という事実をつきとめました。

 エビングハウスは被験者に無意味な配列のアルファベットをたくさん覚えさせて、記憶が失われていく速度を測定しました。結果は次のようになったそうです。

学習直後に覚えていた数を100とした場合の忘却率
 ・20分後……42%
 ・1時間後……56%
 ・9時間後……64%
 ・6日後………76%


 この数値をグラフ化したものが有名な「エビングハウスの忘却曲線」です。


                             画像提供:キオテック創造学習センター

 それにしても、人は覚えた直後から急速に忘れていって、20分後には学習したことの6割も忘れているのですね。だから学習では、最も効果的な復習のインターバルを見つけることが大事だといえるでしょう。

 なお、上の忘却率は100年以上の前のドイツでの数字です。実験の方法によっても忘却率はかなり変わるでしょうから、数字をそのまま鵜呑みにはできません。しかし、昔の心理学説の多くがその後の研究で否定されたり、一部修正されたりする中で、エビングハウスの忘却曲線だけは現代でも立派に通用する数少ない学説となっています。

忘れられない体験について

 上の忘却曲線は、物事を学習して覚える「意味記憶」の実験であり、生活上の体験を記憶する「エピソード記憶」とは異なります(「エピソード記憶と意味記憶」参照)。一般に意味記憶は時間の経過に伴って加速度的に忘れるのに対し、エピソード記憶は忘れにくいという特性があります。もちろん、些細な出来事はすぐに忘れてしまいますが、強い喜怒哀楽を伴った体験は良くも悪くも忘れません。特に恐怖体験などのいやなことは、忘れようとしても忘られず、人によってはそれがPTSD(心的外傷後のストレス障害)になることがあります。

 人は大きなストレスを経験すると、ストレスホルモンが記憶を司る海馬に影響し、神経細胞が衰えてストレス性の記憶障害を起こすことがあります。ストレスは記憶にとっても悪いのです。

 楽しいことを忘れないのは幸せなことですが、いやなことが忘れられないのは不幸です。「時間が解決する」とはいっても、いつ忘れることができるのか、人間の脳の困った仕組みですね。

 ところが近年の研究によれば、失恋の痛手などのつらい記憶も、「積極的に思い出さないようにすると、忘れることができる」ことがわかってきました。気持ちのコントロールにコツが必要で個人差がありそうですが、記憶と同様に忘却も本人の意志の力が大事なのですね。 

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