記憶法&発想法―頭がよくなる脳の使い方
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エピソード記憶と意味記憶

 あなたは幼児期の出来事を何歳までさかのぼって記憶していますか?

 私は、4歳を過ぎてからのことなら、かなり覚えています。近所の子供たちや従兄弟と遊んだこと、叔母に下宿先や職場、東京の親類などに連れて行ってもらったことなど、楽しかったことしか覚えていないのが幸いです。

 それ以前のことでは、3歳1ヶ月の頃に母の実家に行ったときに、座敷で父と相撲をとったことや、新聞を開いて「の」の字を見つけてははしゃいだことを覚えています。それどころか、何歳の頃なのかは不明ですが、母の背中に背負われて庭を一周した光景も頭に浮かびます。

 母にそのことを話すと、「そんなことはありえない、あとで大人たちの話を聞いて作り上げたものだ」と言うのですが…。

 心理学とは無縁の母がこんなことを言うのは驚きで、なるほどそれも一理あります。でも、私にはそれらの断片的な映像がしっかり頭に刻み込まれているので、あとで作り上げた「偽の記憶」だなんて到底思えません。どちらが正しいかは、神のみぞ知る、です。

エピソード記憶

 幼い頃にあったことなどの記憶は、心理学ではエピソード記憶と呼ばれているもので、タルヴィングという心理学者が1972年に提唱しました。

 エピソード記憶は人生の個人的な経験の記憶のことをいい、次に述べる意味記憶
と対をなす対立的な概念です。特に覚えておこうと意識しなくても、自然に覚えているのがこの記憶の特徴です。

 なお、エピソード記憶は記憶の中でもいちばん高度な働きを持ち、忘れにくいという特徴があります。ほとんどの人が3、4歳くらいまでの体験を覚えていないのは、エピソード記憶が生まれたときから備わっていた能力ではなく、あとから獲得された能力だからだとされています。

意味記憶

 解説の順番が逆になったようですが、エピソード記憶の分類が発表される数年前の1962年に、心理学者のキリアンという人が意味記憶という概念を提唱しました。

 意味記憶はひと言でいえば知識の記憶です。生まれて最初に覚える母国語も意味記憶です。言葉を覚えると様々な知識を吸収します。さらに学校に行って教科の勉強をします。こうして得た知識が意味記憶です。

 意味記憶は「覚えようと意識して覚える知識」であり、体験ではなく学習によって得られる記憶のことです。その意味では抽象的な記憶ともいえます。

 通常、「記憶力」という場合は、意味記憶の能力を指すことが多いようです。大人が少年少女時代の体験をこと細かに覚えていても、「記憶力がいいね」とほめられることはめったにないでしょう。
 

知識と体験の融合

 意味記憶とエピソード記憶はまったく別の記憶の部類に属しますが、接点がないわけではありません。たとえば、理科の実験などは実際に体験するものですから、そのときの映像や感情が脳に深く刻まれます。意味記憶(知識)とエピソード記憶(体験)の融合による相乗効果が期待できるわけですね。

 学校時代は意味記憶が偏重されますが、社会に出るとエピソード記憶も重要で、どちらが足りなくても仕事上のハンデになるでしょう。

 そのことは昔からわかっていて、「あいつはいい大学を出ているかもしれないが、頭でっかちで使い物にならない」などと、会社のエラい人が時々こぼしたくなるのは、いつの時代も変わりません。

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